ワンパチがお皿をひっくり返す勢いでがつがつと食べる姿が、なにかに似ている気がする、と最初に思ったのはいつだっただろう。
その「なにか」に気付いたのははじめてワイルドエリアに足を踏み入れ、ダンデくんとキャンプしたときだった。ワンパチと並んでカレーをかっこむダンデくんがあまりにもそっくりだったのだ。
食べ終わるタイミングまで同じで、そしてひとりと一匹は同じ金の瞳でおかわりをねだるものだから、呆れるやらおかしいやらで笑ってしまったのをとてもよく覚えている。
「なんで笑うんだ?」
ダンデくんは首を捻った。
「ダンデくん、ワンパチみたい」
ダンデくんはその琥珀色の目をワンパチに向けた。ワンパチもダンデくんを見て一声鳴く。
「違うぞソニア、ワンパチが俺の真似をするんだ」
な、ワンパチ、とワンパチに話しかけるダンデくん。一方でダンデくんのヒトカゲはようやくカレーを半分食べ終わるかというところだ。
「なんでわたしのワンパチがダンデくんの真似するのよ」
「…俺のことが好きだから、とか?」
「ワンパチはうちの子です」
ということで、うちの子のお皿をまずとる。お皿に半分カレーをよそってワンパチの前に戻すと、ワンパチはもう一鳴きしてカレー皿に鼻を突っ込んだ。尻尾がものすごい勢いで振れている。
一方でかいワンパチはというと、耳が垂れ下がっていた。
「……そんな顔しないでよ。ちゃんとよそうから。どれぐらい?」
折れた耳がピンと起き上がった。カレー皿が突き出される。
「山盛り! ソニアのカレーはおいしいしな」
「レシピ通りに作ってるだけなんだけどね」
料理は科学だ、と祖母が言う。
最高の比率ですべてを組み合わせれば美味しくなるのは当たり前で、レシピはそのレシピの考案者の黄金比を記しているだけだ。
ダンデくんが作っても同じ味になるよ、そう付け加えながら、オプションのらっきょうを添えてダンデくんのカレー皿を戻す。ダンデくんは首を振った。
「母さんのカレーとは違う味がする」
そりゃ黄金比が違うせいだ。
「お母さんの方のが食べ慣れてるからおいしいよね」
「カレーはなんだっておいしいぞ」
それただカレーが好きなだけだから。
ダンデくんは、2杯目を皿ごと傾けてかっこみはじめた。…やっぱり、ワンパチみたい。
ごちそうさま!と勢い良く皿を離すと、鼻の頭にカレーが付いている。空になった皿をワンパチの前に差し出すと、ワンパチは皿よりもダンデくんの鼻をぺろりと舐めた。くすぐったいな、と笑ってから、ダンデくんは食事前にとった帽子を被り直す。
「一日は短いから、急がないとな! ごちそうさま! ナックルシティで会おうぜ!」
よしヒトカゲ行くぞ!とダンデくんが声をかけると、ゆっくり食べ終わって、一息ついていたヒトカゲが慌てて立ち上がる。荷物を取ると、ダンデくんはあっという間に行ってしまった。
「えっあ、」
……今彼はナックルシティで会おうと言った。でも、向かう方角にあるのはエンジンシティだ。
残ったのは、空になった皿を舐めるワンパチと半分も食べきってないわたしと、キャンプのテント。そのわたしたちを、沈む夕日が照らし、影が伸びていく。
こんな時間に、しかも間違った方角に向かっていって、彼はどうするというのだろう。
「……ワンパチはここまでおバカじゃないからなあ……」
ワンパチに似てる、と考えてしまうのは失礼な気がしてくる。ワンパチに。
カラン、とワンパチが舐めきったプラスチック皿が音を立てる。その音が妙に響いた。
……真っ暗になった頃、ヒトカゲが尻尾の灯火を頼りに、ダンデくんをキャンプに誘導して帰ってくるのはまた別の話。
家路
1 : あと10年