1回目。空しくもあったが、俺は俄然やる気を感じていた。
ただ、あれだけ見ていて楽しかったカミナギが、前も見たことを繰り返し、前と同じ事を喋る。それは少しだけ苦痛だった。
2回目。記憶と違う行動を起こすと、周囲の反応が結構楽しい。意外に哲学的な返事をしてくるトミガイ、オミズ。やけにフレンドリーに接してみるとカワグチに気持ち悪がられた。
―――だけど、逸れるのは一瞬だ。すぐに元のルートに戻る。保存されている道筋へ。
3回目。…舞浜サーバーに帰りたくなくなっていた。
ゼーガペインには乗るし、舞浜サーバー始め他のサーバーだってもちろん守る。だって、カミナギが、みんながあそこで来る日を待って眠っている。俺はあそこを守る義務があり、その義務は俺自身が選んだ道だ。
だが、あそこに戻る度に少し…いや、かなり。ウェットダメージを受けていることには気付いていた。
きっと、そこに俺がいなくてもカミナギは同じ事を喋り、水泳部は和解への道を辿るだろう。そうやってデータが組んであるからだ。
俺がいないことに違和感を感じても、どうせ8月31日にはリセット。違和感は誰1人として覚えていない。
イェルに言ったことは嘘じゃない。違うことをするのが楽しかった時期もあった。でも、疲れてもいたのだ。
だから俺はあの時、シズノを強制転送させて、何の未練もなくバニシュメントモードを起動できたに違いない。
復活するなんて思ってもいなかったんだから、あの時の俺は消える気満々だったのだ。
「バカだよなあ、俺」
「うん? なんで?」
「たまに何も見えなくなる」
「何言ってんの、それがキョウちゃんじゃない」
「…それはそれで、すっげーフクザツ」
あたたかい日差しの下で、カミナギとゼーガペインと共にドヴァールカーを待つ。
呟きながら拾い上げた砂は、すぐに手のひらからこぼれ落ちてゆく。
確かに手に残る「握った感覚」に少し気分をよくしたが、必ずしも掴みきれないものがあることを同時に実感する。
一握の砂とはよく言ったものだ。確かに存在したはずなのに、こうして滑り落ちてしまう。
手に残ったものだって、目の前に広がる浜辺からしてみたらほんの一部。
それでも、俺は生きている。手の中にある僅かばかりの砂を握りしめ、指の間からさらさらとこぼれた砂のことを想いながら。
「いのちなき、砂のかなしさよ、さらさらと…か」
「まーたなんか言ってる」
「石川琢木。カミナギも読んどけよ」
握った手をぱっと広げ、残った砂も浜辺に還す。ゆるい潮風が落ちた砂をさらい、ほんの少し遠くへと運んだ。
掬われた砂に変化がないわけではない。たとえ落ちたとしても、元あったままには落ちない。少しの変化だが、確かに動いているのだ。
バニシュメントモードを経て俺が、そしてカミナギが、世界が変わったように。
「ここには読めるような本ないしさ。ゼーガの中はさぞかし色んなことが詰まってんだろうな」
かつてはここに『転送』されていた。
QLの節約のために光装甲を切ってあるゼーガペインを見上げる。
1と0の2文字で構成されたデータの中には、まだまだ知らないことが沢山あるのだろう。
カミナギは考える仕草を見せてから、しばらく目を閉じた。電子の海を泳いでいるに違いない。時折、カミナギの身体にノイズが走る。
「いしかわ…たくぼく…あ、あったあった、図書室かな」
「だろうな」
「う〜〜〜〜〜〜ん……」
見つけたデータを参照しているらしいカミナギの眉が、寄り始めた。
そして一言
「…感覚的」
と言った。思わず感覚だけで存在しているのはどっちだとつっこみたくなった。
「解説書ほしいな」
「詩に解説付けてどうすんだって。感じたままでいいんだよ、得意だろ」
「自分の感じることを表現したり、話したりするのはね。でも、人の感じたことを同じように感じるって、難しいんだからね?」
と言い、カメラを構える真似をするカミナギ。
「というわけで」
「どうせわかんないから、キョウちゃんと一緒に読めるまで待ってるね」
電子の海は泳げても砂を掴めないカミナギは、透明なカメラのレンズ越しに笑った。
握れば指のあひだより落つ